演舞場発 東寄席 第十四回

演舞場発 東寄席 第十四回2016年5月16日

ここ新橋演舞場地下『東寄席』もはやくも十四回目、本日も落語と日本酒を楽しむ会は大盛況にて迎えることができました。誠にありがとうございました。

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今宵、『東寄席』に初めてご出演いただきましたのは、五代目柳朝師匠譲りの江戸前の芸を継承され、大河ドラマ「龍馬伝」では江戸ことばのご指導もされた噺家、春風亭一朝師匠です。

落語と共にお楽しみ頂く日本酒は、神奈川県海老名市で安政四年に創業の泉橋酒蔵。この季節一番飲んで頂きたいお酒をご推薦いただきました。

今宵、新橋の一興を、
落語とともに

開口一番、拍手とともに登壇されたのは小柄で細身の春風亭一花さん。春風亭一朝師匠の八番目のお弟子さんです。

高座の座布団がはじめやや大きいかとお見受けしましたが、その落語を聞けばそんなことも忘れてしまいます。燻銀の低音が唸る落語の世界で、一花さんの高音は斬新で、会場を響き通る愛らしい音。たちまち客席は惹きつけられます。


演目は、「灘の酒」を「タダ酒」と間違えて隠居のところにやってきた世間知らずの男の登場する『子ほめ』の落語。八代目春風亭柳枝師匠の十八番の噺としても知れたこの演目は、今宵の旨い日本酒の会にはとても似合いの演目です。会場をすっかり陽気に染めあげて、立派に開口一番をつとめ上げます。

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つづいて菖蒲浴衣の出囃子とともに客席からの「待ってました!」の掛け声で、春風亭一朝師匠の登壇です。

ここまでで、泉橋酒蔵の旨い酒でほんのりとあたたまった客席に、「日本酒と楽しむ会ということで。どっちかというとわたしがつまみになっていますね」と物腰のやわらかい語りと会場の笑いで始まりました。

枕では酒に纏わる先輩の「酒のツケ」の話にはじまり、なんといっても師匠が二つ目でいらしたときに、十年ほど歌舞伎で囃子のアルバイトをしていた話など。これはなかなか聞けないお話です。


歌舞伎座をはじめ、こちら新橋演舞場や国立劇場で御囃子をされてた一朝師匠。天王寺屋は、中村富十郎さんの京鹿子娘道成寺でも出演されていたというのですから歌舞伎の伝統芸能を背負う新橋の顔とこちらも伝統芸能の下町落語が一朝師匠にて結びついたような、師匠でなければこの融合はなかったであろう”遭遇”に近いものを感じずにいられません。


歌舞伎には大向うの「◯◯屋!」という聞き取れないような屋号の叫び声は有名ですが、実は大向こうが勘で三階の後ろから花道の揚幕が上がった瞬間に叫びだすのでときには違う屋号を言ってしまうという笑い話もあるのだそう。

ほかにもなかなか聞けない松竹歌舞伎座の裏で語る、これぞ本当の裏話。すっかりその道に入り込んでしまいます。のめり込んだ観客の目の前に歌舞伎座の荘厳な舞台を浮かべたまま、落語は忠臣蔵を演じる『中村仲蔵』の噺へ。

長い間修業を続けてようやく名題に昇進した仲蔵が、看板役者となったのに期待した役どころか、”弁当幕”などと呼ばれる客が劇中最も感心を持たない場面の役どころ、「忠臣蔵の五段目の端役」の定九郎を演じることになってしまうお噺です。女房の励ましで気を持ち直し、蕎麦屋で雨に濡れた旗本の殿様を手本に白塗りで黒羽二重白健常、尻をたかだかに端折り見栄を切るといった名場面を成し遂げます。

嘗て無い仕上がりに、大向うのような声も上がらない。客席はただただ「んーーーーーーーー!」とうなるばかり。感心の唸りか、それとも落胆か。演じる役者も賭けに出る。これは、もしや三年の修行のし直しか。

最後の最後まで諦めたくなる気持ちを抑えながら芝居し通すひとりの役者としての生き様が目に浮かぶようで、弁当幕と呼ばれていた忠臣蔵のその場面をたちまち見てみたくなるもので。そう、それが一朝師匠のいなせな落語。これを聞けば、歌舞伎が見たくなるというもの。

歌舞伎が好きなひとが聞きたい落語か、それとも落語がはじめか。感嘆の唸りの響き渡るいずれのファンもうれしい一席でした。

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15分の仲入りを大和芋の短冊鮫軟骨を梅肉で和えた八寸と辛口の純米吟醸とはさみ、客席が落語の余韻を楽しむと、続けて二席目がはじまります。

楽屋に来られてから演目を決めるという一朝師匠。次はどんなお噺か、一席目であがった客席の期待がますます高まります。

二席目も客席からは「日本一」の掛け声とともに一朝師匠が登壇します。

「今日は一朝(いっちょう)懸命に..というのを、一席目に言い忘れちゃった」

ここは懐かしいもんで舞い上がってしまいました、と笑う一朝師匠に客席からも待ち望んでいたような安心の笑みがこぼれます。


”三度の煩悩なんていいます。いわゆる飲む・打つ・買う。男と生まれてどれかひとつくらいは迷うと言われていますが、中には三ついっぺんに迷うというひともいますね”といえば、客席は大笑い。三度の煩悩とは粋な語りはじめの『唐茄子屋政談(とうなすやせいだん)』が始まります。


吉原遊女三千人御免、吉原に字の如く骨抜きになったダメな若旦那が吉原を追い出されて、行き着くところが無くなって川に身を投げようとするところ伯父に救われ、唐茄子屋の仕事を遣わされます。


『唐茄子屋政談』は唐茄子屋になって若旦那が人助けをして勘当が説かれる人情美談がよくある締めの部分のようですが、一朝師匠のここは仕掛け。

垢抜けない若旦那の、青臭さを存分に匂わせます。ひとりじゃ唐茄子一本を売ることも運ぶこともできず、見知らぬ人に売ってもらい、最後の二本だけでもまわりの物売りに真似て売ろうとするあのシーンがラストの運び。
「唐茄子~〜。唐茄子~でござい」

若旦那の慣れない物売りの仕事ぶり。街角で照れくさそうに掛け声を練習をしては、人目が気になって、人里離れたところで行ってまた「唐茄子〜」の練習。唐茄子二本乗せた両天秤を担ぎ、遠く離れて練習をしていると、かつてのあの吉原の側の畑にたどり着きます。

吉原を眺めて、花魁との思い出を妄想しては我にかえって「唐茄子ー、でござい」...。「のびあがり」の端唄と心地よい花魁との淡い思い出。そしてまた照れ隠しのように「唐茄子ー、で、ござい」...。

恥ずかしそうに自信の無さそうに、小さな声で始めた掛け声がいつの間にか若旦那の掛け声と形となり変化していく。なんともこれこそ人間味というもの。

ここで「お時間で」と終わるのは、さすがは一朝師匠のいなせな技。この場面こそが若旦那の若い部分と成長を彷徨い嗅ぎ分ける丁度良いその節目といえましょう。

夕暮れの迫るころ、まだどこか垢抜けない若旦那の妄想と、「唐茄子~」のフレーズ。自然となにかいい塩梅になにか明日への小さな期待のような眼差しを浮かべてしまうのです。

日の暮れた田舎道。遠く薄紅の夕焼けの下に佇む吉原を浮かべながらぼんやりと見つめたように、客席からも一朝師匠を通して見つめていました。師匠が壇上から見えなくなっても拍手が鳴り響いていました。

今宵のお料理とお酒を愉しむ

今宵のお酒は大正八年に創業の酒販店、神奈川県は厚木にあります望月商店さんがご推薦くださいました。お勧めいただいたのは同県にある泉橋酒蔵の「いずみ橋」。新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ季節を感じるお弁当とお楽しみいただきました。


望月商店といえば、この会ではもうお馴染み。望月太郎社長の挨拶で本日もスタートしました。”一昨日から日本酒の勉強を新潟で夜遅くまでしてました”と冗談を言って声を枯らして登場という、なんとも気さくな望月さん。落語が大好きで落語と日本酒はともに日本文化なくてはならないものというコラボに感謝しているんですというコメントもいただきました。

今月は田植えのスタートの時期なので、この時期の神奈川の風土を感じてほしいと、夏向けのバリエーションの五種がこちらです。



①いずみ橋 夏ヤゴにごり酒

夏ヤゴは赤とんぼの幼虫。 初夏の今宵にぴったりのセレクトです。炭酸爽快なにごり酒を先付けのするめいかの塩辛と演舞場特製のお弁当といただきます。

②いずみ橋 恵 純米吟醸

仲入りでいただくのは、大和芋の短冊鮫軟骨を梅肉和えた八寸とよく合うこれも辛口の純米吟醸。落語の余韻に優しく酔いしれます。ここで出会ったのもなにかのご縁と、客席同士注ぎ合う会場の風景も印象的です。

③いずみ橋 黒蜻蛉 生もと純米

落語終了後、鰆蕗味噌焼きといっしょに。備え付いた胡瓜と人参の糠漬けと山田錦の米香る黒蜻蛉の酒がとてもよく似合います。

④いずみ橋 夏ヤゴ 爽快辛口生原酒

泉橋酒蔵、橋場社長のお話とともに。地産地消、無農薬で作っている海老名の山田錦はきちんとそこにまだ田んぼに蜻蛉がいるその証拠なのだろう。蜻蛉とヤゴのこのラベルは泉橋酒蔵の安心のブランドのサインのようです。

⑤有機米 玉栄 純米

できたての純米酒 アルコールが19度と高いお酒です。会場が美味しさと幸せで包みます。


今宵のお弁当はこちら

初夏を味わえる彩りよいお弁当をご用意いたしました。味わいのある赤味噌をつけたよもぎ麸の田楽やシャリにすこし塩味をきかせた鮎寿司、清涼感と歯ごたえの蛇腹胡瓜と赤貝を使った酢の物、黄味酢掛けや、築地に近いこの土地ならではの新鮮な鯛やサーモンの刺し身など目に良し、舌に良しの工夫を凝らした逸品を詰め込みご用意いたしました。

泉橋酒蔵・橋場社長のお話

一朝師匠にあやかって、「いっちょう懸命がんばります」と楽しい挨拶をくださった橋場社長。泉橋酒蔵は安政四年からの老舗の酒蔵です。

神奈川県海老名市で地産地消の酒蔵をしていると驚かれることが多いようですが、米作りを始めたのはもう20年も前からの取り組みだそう。日本にはいまでも1500の酒蔵があるそうですが、一番酒蔵の多かったのは明治の頃で2万件もあったというその酒蔵の歴史についても教えてくれました。

江戸時代は税金は年貢米であずけていましたが、それを現金に変える手段として酒蔵にお米を売ったのだそう。江戸時代は戦争が無かった分、新田開発に力を入れていて、出来たお米が酒蔵にまわしてお酒になる。そうしてたくさんお酒を飲んで農業が大きくなり、また余剰米がお酒に回ると酒蔵はいつしか、二万と増えていったのだそうです。

夏場米を作る農家が冬の間の働き口として冬場の杜氏制度を限定的にあえて設けたことで雇用体系も整ったりと、酒蔵の歴史には江戸幕府の奇策とともにあったことがよくわかります。


飲んで美味しい、聞いて納得。橋場社長のお話に、またも客席は「なるほどねえ」と感動の様子。泉橋酒蔵は神奈川県海老名はSAから15分ほどの場所に酒蔵があるそう。「日祝以外は営業していますので、ぜひ遊びに来て下さい」

お酒を通じて新たな旅の楽しみも増えますね。


楽しみは最後まで

日本酒を楽しむ会の最後も恒例の抽選会が行われました。泉橋酒蔵さんからご用意いただいた湯燗徳利や前掛け、といった酒蔵ならではの楽しいプレゼントや、今月東をどりが開催される新橋演舞場ならではの千社札を貼った五尺枡、一朝師匠のサイン色紙など、抽選番号が呼ばれるたびに、会場は大盛り上がり。

笑顔の絶えない一夜をお楽しみいただきました。



次回の落語は6月29日(水)桃月庵白酒師匠 独演会を開催します。ぜひ、お楽しみに。

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