演舞場発 東寄席 第二十二回

演舞場発 東寄席 第二十二回 2017年2月14日

2月14日バレンタイデーにお送りします東寄席は満員も満員、定員を二十も超える大盛況。初出演となります俳優の風間杜夫さんをお迎えし、落語、日本酒、江戸野菜と新橋料亭街伝統の味を受け継ぐ美食とともにお楽しみいただきました。
『第22回 落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』風間杜夫さん

落語を楽しむ

風間杜夫(かざまもりお)1949年東京生まれ。早稲田大学中退。俳優小劇場付属養成所を経て、72年「表現劇場」を旗揚げ。77年よりつかこうへい作品の主軸俳優として人気を博す。82年映画『蒲田行進曲』で脚光を浴び、83年TV『スチュワーデス物語』でお茶の間に浸透する。以来、その演技力は高い評価を得て、数多くの演劇、映像作品をはじめ、幅広いジャンルで活躍中。

往年の出世作「蒲田行進曲」の出囃子が流れると会場は思わず手拍子を叩き胸を踊らせます。山鳩色に漆黒の羽織の落語家の登壇に手拍子はたちまち大きな拍手と歓声に。登壇するなり手のひらをおでこにあてて往年の林家三平師匠のようにはにかんでから、居住まいを正し「わたくしが風間杜夫でございます。」それだけでもう、会場は嬉しそうに笑い出しました。

風間さんが落語を始めたのは今から17、8年前のこと。亡くなられた立川談志師匠の門下である立川談春さんとの交流があって、風間さんの落語好きがこうじて新宿の紀伊国屋ホールの落語会に誘われ一席披露したことがあったそう。その日談春師匠のご友人であった柳家花緑師匠が袖の方で聞いていらっしゃいました。花緑師匠といえば、かの人間国宝であった柳家小さん師匠のお孫さんだ。一席終えた風間さんに『いや、大変素晴らしい、あなた大変お上手だ』と褒められたことが“落語家、風間杜夫”としてのはじまりに。「人間褒められると悪い気はいたしませんもんで、わたしはそのとき思いましたね。柳家花緑という男、年は若いがさすがにサラブレッド、人を見る目が違う。褒める人間を間違えてない!と眼力の凄さに敬服しまして、それじゃあやってやろうじゃないのということでやっています」ちょっとずる賢そうに笑い会場を笑いで沸かせます。

  いやはやあの二枚目俳優は、すっかり落語家の顔となり会場はたちまち“落語家、風間杜夫”の噺に夢中になりました。

  『第22回 落語と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』一龍齋貞水師匠 「人間のぼせ上がってしまうと手がつけられません。謙虚にいかないと、、といいつつも、褒められることが大好きで褒められたくてずっとこの稼業をやっています」 底抜けの明るさ、流暢な語り口、会場は笑いが止まらずどっぷりと引き込まれていきます。枕では“役者 風間杜夫”の話題に花が咲き、笑いが起こり、うまいこと今後の芝居の予定を「ぜひこちらもひとつ」と告知すればまたどっと笑い。「そういうときによくお花だとか菓子折りだとか.. そういうお気遣いは一切必要ありません、身ひとつでいらしてください」と言えば、もうひと度「身一つで」と念押し。笑いをこらえ訝しげに高座を見つめる観客席。待つか待たぬか一拍おいて「どうしてもね、気持ちを形に表したい方は、よくこう、、封筒に入ったものを受け取るのも吝かではない。ぜひ気遣っていただければ」と調子づく。ニヒルな俳優とは一変した剽軽ぶり。
もう誰もが笑わずにいられません。

一席目はそんな柳家花緑師匠に“褒めていただいた”という思い出の「湯屋番」。 散々道楽をした若旦那が挙句に勘当され、職人の家に転がり込んでご厄介。居候の身でぐうたらタダ飯を食っているのでとうとう棟梁のおかみさんが愚痴を吐く。見かねた棟梁が若旦那にどこか奉公に行くようにすすめられ、女将さんが美人で知れたお湯屋に奉公に行くことに。「奉公している間に女将さんの旦那さんがポックリ死んでうまいことその後に一緒になろう」なんて妙な妄想がはじまって、止まらない若旦那の独り言が、堪りません。客席は声をあげて大笑い! 抱腹絶倒の大爆笑の一席でした。

仲入り挟んで二席目は、お人好しで商売下手の道具屋の甚兵衛が登場する「火焔太鼓」。市で古く汚れた黒い太鼓を押し付けられた道具屋が、しょうがないからと甥っ子に叩(はた)いて汚れを落とすように命じれば、叩(たた)いて太鼓を響かせてしまう。その太鼓の音が通りかかった大名の耳に止まり、市ではたった一分で押し付けられた太鼓が高値の三百両に跳ね上がって売れたといった話し。さすがは役者。二席目も客席は終始ずうっと笑いっぱなし。枕から演目に至るまで、その口調とサゲの入れどころや呼吸を聞けばどこからどう見ても“落語家、風間杜夫”。男前役者は落語家の顔をしてもファンのハートをしっかり離しません。
 

二席終えたところで東寄席では初めてのトークショー。 落語とともに至近距離で拝める会とあって会場はうれしい歓声が止みません。風間さんは、落語を続けて早15年以上。一年に一本ほど覚えてらっしゃるのだそう。持ちネタは古典作品を12本と放送作家の鈴木聡さん新作落語、明治座の林家三平師匠の三平落語の高座。覚えたといったって俳優業の傍ら、実際2、3日は稽古をしているといいます。ほとんどは尊敬している古今亭志ん朝と古今亭志ん生師匠のネタを。“火焔 太鼓”は両師匠のネタのミックスしてご自身で編集し、“湯屋番”は三遊亭圓遊のNHKのテープがあって覚えたといいます。

好きな落語は何度も耳で聞いて、文字で書きながら、次に自分の声を録音して耳で覚える。師匠がいないために、自分で耳でおぼえる。嘗て、生前つかこうへいさんが即興で作る芝居を、文字で覚えるより耳で覚えて演じてきたことに慣れていることもあって、最終的には落語も耳で覚えるスタイルが 風間流のやり方なのだそう。 ほかに、お孫さんのお話やら、ポリープの話やバレンタインの思い出話まで会場からの質問やあいづちが飛び交い、他愛もない話題も風間さんの話術にかかれば終始笑いがとまりません。 風間さんのその笑いの才能を知った花緑師匠からも「入門したらどうですか?3、4年修行したら真打ちになれますよ」と勧められたこともあるのだそうですが、落語は好きだが落語家にはなりたくないというのが風間さんの哲学。「ヤクザ映画は好きだけれどヤクザには」と、こんなエピソードにもオチを忘れません。落語家にしないのが惜しいほど、ですが惜しいと言われようとそう安々と「落語家 風間杜夫」にはなりません。落語家に見えたこの顔もまた「役者、風間杜夫」の顔なのだとその言葉から読み取れます。塩梅の良い図々しさと、天才的なアドリブセンス。
かつてバレンタインに何箱分もチョコレートをもらった二枚目俳優は、「いまや、嫁すらくれません」と笑わせて、また新たなファンを増やしているようです。
 

新橋演舞場の美食を味わう

新橋演舞場の特別献立

今宵も新橋演舞場が誇る色とりどりの旬の味覚をご賞味いただきました。暦の上では立春を過ぎてもまだまひんやりと凍る冷たい季節。地中で春はまだかとやっと芽吹いたばかりのたらの芽や、早春の澄み切った空に香り立つ梅を装う品々を、酒に合う肴膳を特別献立でご用意しました。
春一番の蓬麩は田楽で。大和芋とさめ軟骨はさっぱりと梅肉和えで。この時期が旬の河豚を煮こごりに。たらの芽は天ぷらで。しっとりとした豆腐は爽やかなカレーゼに。向付には鮪と鯛を。煮物には高野豆腐にじんわりと出汁を含ませ筍や梅麸を添えました。
利酒の会では酒に似合う逸品を、春らしいかれいを柚庵焼きにして。留椀の粕汁には具だくさんの鮭や牛蒡などのお野菜に合わせ、今宵の江戸野菜、五関晩生小松菜も合わせました。最後の水菓子にはバレンタインの思い出にチョコわらび餅といちごチーズ大福を。美味しいお酒と一緒にお 楽しみいただきました。
 


江戸野菜を楽しむ

TYファーム 島田さん

品種改良されていない青々とした小松菜は東寄席では二度めの登場。以前去年の10月ごろ。「とろけますでしょ?」と言ってTYファームの島田さんが紹介してくれましたが、今宵の小松菜は同じものでもちょっと違う。野菜はこの時期、寒さで体が凍るのを防ぐために葉っぱに糖分を集めて凍結を防ぐような防衛本能がはたらくもの。そのため、この時期にとれる小松菜はやわらかくて甘みがあってまた最高に美味しい。しかし、こういった防衛本能野菜にあるとはいえ、寒さにも調整が必要で、ビニールをかけて栽培しているのだそう。ところがこれが目を離すと熱くなりす ぎてしまう。ビニールハウスの扉を開けたり閉めたりして温度を調整して目を光らせてと、この美味しさは実に野菜の持つ機能と人の努力の結集が生んだ賜物のようです。
江戸川区の小松川村で徳川の八代将軍が気に入って、名の無いこの野菜に地名をつけた“小松菜”はいまや知らない人はいないほど。そんな古くから親しまれてきた今宵の小松菜の種とは、栽培して育てて生まれたものを繋いできたもの。江戸川区の後関種苗から繋いできたこの小松菜は五関晩生の小松菜といわれ、巷で流通している小松菜とは姿も味覚も全く違うものだといいます。

 江戸野菜 小松菜

島田さんは「我々が関わった以上、次の世代まで種のとりかたまでつないでいく責任があると思っています。」と小松菜を通して野菜づくりにかける熱い思いを届けてくれました。


 

美酒を楽しむ

出羽桜酒造 池田さん

出羽桜酒造の池田さんからお話をいただきました。明治26年に創業した山形の酒造で、歴史としてはそれほど酒造業界の中では長いほうではないと言われていましたが、その工程技術には定評があります。フルーティな味わいとコクの味わいは丹念に昔ながらの「こしき」を使った蒸米で、蔵人が丁寧に良い蒸米をつかって「麹」を生み出し、すべての工程を蔵人の手の温もりを大切に手作業で行っているから。今宵はなかなかこちらも出回ることのない仕込み水と合わせてご提供いただきました。酒類の中でも15度とアルコール度数の高い日本酒。「ぜひ仕込み水や、美味しいお食事と合わせてお召し上がりください」と四種をご紹介いただきました。

出羽桜酒造 出羽桜

出羽桜 桜花吟醸 吟醸缶:
いちはやく吟醸酒を市販した出羽桜。「出羽桜といえば吟醸酒」の世界を作り典雅な酒を広め続けていたと缶裏にも明記してあります。さすがは出羽桜、これほどのふくよかで香りの良い旨いお酒を缶で味わえるのは贅沢そのもの。両手でお猪口をもって香りごとその味わいを楽しむ方も。 冷えたお酒をちびちびといただけば食事もまた箸がすすみます。缶を紙などで包んで熟成を楽しむという粋なやり方もあるのだそう。酒呑みには堪らない一酒です。
 

出羽桜 本醸造おり酒 春の淡雪:
新酒しぼりたての一酒精米50%の本醸造。スーッと澄み切った雪解け水のような淡さの中にキレ のある爽やかさ。霞むうす濁りの「おり酒」です。冷やして呑むのも美味しいけれど、細かく砕いた氷をたっぷり入れて楽しむのも美味しいそう。
 

出羽桜 純米酒 出羽の里:
オレンジ色のラベルのお酒は、2013年に英ロンドンで開かれた世界最大規模のワインコンテスト I.W.C.(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)で金賞を受賞。さらに3年後には、受賞した酒の中からたったひとつだけ選ばれる日本酒部門の最優秀賞「チャンピオン・サケ」を獲得している。厳選された米を使って蔵人が丁寧に手造りで醸したこの酒は、さわやかなフルーティさを奥に醸しつつ、どこかほっとする温もりを感じるお酒。
 

純米談吟醸 一路:
利酒の会の最後に一注ぎひと注ぎ、丁寧に出羽桜酒造の主人の手から注がれていただくお酒も2008年にI.W.C.のSAKE部門で、最優秀となるチャンピオン・サケの称号を獲得している。口に含んだ ときの飲み口がやわらかで落ち着きのある味わいのお酒です。 2016年にノーベル医学生理学賞に選ばれた東京工業大学の大隅良典栄誉教授が受賞のきっかけとなった「酵母」にちなんで、授賞式に記念で安倍総理にプレゼントした日本酒です。大隅教授は酵母の研究を「真実一路」と突き進んでノーベル賞に輝いたとネーミングも含んで選んだそう。栄誉ある晴れの舞台に相応しい味わい深いこのお酒は、贈答品にも人気のようです。
 


福を楽しむ

最後のお楽しみは抽選会。江戸野菜や、桧の升、新橋芸者衆の踊りの招待券や風間杜夫さんの千社札や色紙など、満員の会場を一喜一憂のどよめきと歓声が包み、今宵も大いに盛り上がりました。

お楽しみ抽選会
桧の升
風間杜夫さんの千社札
大賑わいの様子
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