演舞場発 文化を遊ぶ 第十回

演舞場発 文化を遊ぶ 第十回
なでしこの踊り 秋2017

「演舞場発 文化を遊ぶ」として好評の、新橋芸者衆 若手連中による七回目の「なでしこの踊り」が今秋も開催されました。

なでしこの踊り・秋2017

新橋芸者衆の歌舞練場として大正14年に創建された新橋演舞場、
その柿落し公演であった「東をどり」は今もなお多くのファンの皆様に支えられ受け継がれています。

東をどりといえば、新ばし芸者にとってもの夢の舞台。
「なでしこの踊り」はその東をどりへの出演を夢見て
日夜稽古に励む若手衆が出演しています。

そして実は中には既に東をどりの経験者が肩を並べて踊っている
というのも新橋演舞場ならではの魅力のひとつ。

七回目とまだまだ若い会ですが、
この日も会場の半分ほどもファンの皆様にお越しいただきました。
次代のスターの名前をお一人でも多く覚えていただきたい
という思いで開催しております。

  • 小優さん
  • ぼたんさん
  • 小花さん
  • ちよみさん

お食事

本日のお料理

満員の観客席。本日は、よりお座敷の雰囲気に近づくよう観客席を舞台に近づく高台にしてご覧いただきました。テーブルには踊りを待つ間、金田中の伝統を受け継ぐ新橋演舞場の特別会席でおもてなしを。普段では味わえない料亭の味をお楽しみいただきました。

また、お食事の間には本日の舞台を飾る芸者衆が「本日はどうぞよろしくおねがいします」とにこやかに周り、お酒をお酌するサービスを。千社札のついた升に、白く靭やかな芸者のお酌で注がれた浦霞を、うれしそうに召し上がるお客様の笑顔が印象的でした。

  • 小花さん
  • 小優さん
  • きみ鶴さん
  • 千代加さん

一組目は左から、小優さん、小花さん、きみ鶴さん、千代加さん

  • たまきさん
  • ぼたんさん
  • ちよ美さん
  • 小福さん

二組目は左からたまきさん、ぼたんさん、ちよ美さん、小福さん

解説

解説

左が一組目の千代加さん 右が二組目の小福さん

踊りの前に解説のお時間です。
いつもは大きいお姐さんの解説がありますが、本日はこれから踊る芸者の解説とあって新しい試みに期待が高まります。日を分けて、男形の芸者さんである千代加さんと小福さんにお話いただきました。

芸者になった理由

千代加さんは昔から日本の伝統文化がお好きだったそう。小福さんは中学の頃たまたま地元長野に巡業に来ていた歌舞伎の出会いをきっかけ。お二人とも日本の伝統文化を愛する気持ちが由来になったようです。
それが巡り巡って「東おどり」をきっかけとしてこの花柳界へ志すことになったのだそう。またこれも稀有な縁、小福さんは社会人の経験をされた後に新橋の芸者になりたいという決意を固められたのだそうです。

新ばしを名乗るのに五年の稽古

芸者の印象でいうと、幼い頃から日舞などの経験を積んでいる印象がありますが、お二人が稽古を始めたのは二十歳を過ぎたころ。京都の舞妓、芸姑が十五、六歳までしか入門の資格が無いのに対し、実は新橋は二十歳前半までと門戸が広いこともあり様々な経験をしたお二人が「好きなことを諦めたく無い」という決意に背中を押したのもこの新橋だからできたのかもしれません。それでも厳しい新ばしの花柳界。本人の努力と気持ちの持ちようでいい芸者かどうか、何年もの稽古を積んで決まるためとても努力を欠かさないのだそうです。

千代加さんは今は踊りだけではなく余技として三味線やお囃子、お茶の稽古なども休みなく励み、小福さんもまた、この道五年目の芸者さんですが「まだまだ富士山の七合目です」と奢ること無く稽古に勤しみ向き合う様子が伝わってきました。古くから「新ばしを名乗るには五年は稽古を積んでから」と云われるこの世界。客席を通して息を呑むほど所作のひとつひとつがただただ美しく見とれてしまいますがそんなお二人を支えるのが日々の努力の賜物であることがわかります。観客席からは感心のため息が漏れていました。

装い

今回のなでしこの踊りは秋。新橋では6月から9月までは浴衣を拵えています。

男形

男形

鬘:前割れ
 日本舞踊を踊る際に男形のときはこの鬘。
もともと歌舞伎の役者衆は江戸時代に自毛で髪を結ってその上から役によった鬘をかぶっていて鬘を被るため、下地としてゆった髪型から引用したものだそうです。
後ろには女形と同じく涼しげな夏の翡翠の玉をつけています。
着物:ちりめん浴衣 夏のカジュアルな浴衣。衿が左側だけでているのが新橋流。男形は白、または水色の衿が左側だけでています。
帯:後見結び

女形

女形

鬘:つぶし島田。花嫁さんの文金高島田とは違って高さを低めにすっきりと。
挿物:象牙の白い挿しもの。
正月などはべっ甲にし、夏は涼やかな白い色を挿しています。
着物:ちりめん浴衣。
こちらも片側だけ赤い衿をだすのが新橋流。
帯:角出し。帯留めを使わない粋な使い方をしています。

半玉

半玉

髪型:桃割れという少女の髪型です。
たまきさんは鬘を使わず自毛で髪を結っています。一週間に一度しか直すことができないので就寝時も首元に固い枕を使ってきれいに保たせています。挿物:桔梗のかんざし。春は桜など、季節によって花がかわります。
着物:京都の舞妓さんのようには裾をひいていない振り袖が特徴。また肩上げが着物に入っています。衿には柄が入って華やかな若々しい誂えです。
※半玉は芸者の見習いのこと。京都でいう舞妓さんがそれにあたります。東京でも十数人しかいない貴重な存在です。

なでしこの踊り

― 紅葉(もみじ)の橋

秋から冬に変わる景色をしっとりと唄った端唄です。扇をひらひらと舞い散る紅葉に見立てて女形三人で美しく紅葉狩りをして楽しむ様子に見とれる一幕です。

  •  紅葉(もみじ)の橋
  •  紅葉(もみじ)の橋

― 秋の色種(いろくさ)

江戸時代、麻布不二見坂に南部藩邸が新築されたお祝いに初演された長唄です。一節によるとこの目出度い席でお殿様が思いついた詩を浮かべ、そこに来ていた作曲家に即興で節を取らせてできた唄。秋の野に戯れ、男女が楽しそうに振鼓を使って踊るこの舞いは目出度い席に相応しい一興です。

  • 秋の色種(いろくさ)
  • 秋の色種(いろくさ)

― きりぎりす

軽やかな楽曲に乗せた踊りは手ぬぐいをくるくると回しながら賑やかに踊ります。一番はキリギリスの姿を女形二人が踊り、二番はおかめの愛嬌を男女で踊ります。

  • 小優さん
  • 小花さん
  • たまきさん
  • 千代加さん

― 三階節

新潟県柏崎の盆踊り唄が元祖。花柳界では座敷唄として親しまれてきました。移ろいやすい秋の天気や、日本海の荒々しさを思わす様を男形がひとりで踊ります。

  • 三階節
  • 三階節

― 津山の月

歌舞伎の始祖は出雲阿国と津山藩士の名古屋山三といわれます。清元「津山の月」は二人の恋模様を描いた曲でその一節の花笠踊りを全員の総踊りでご覧いただきます。難しい二枚扇を使って艶やかにそして豪華絢爛に踊りました。

  • 津山の月
  • 津山の月

― 奴さん 獅子は さわぎ

  • 奴さん 獅子は さわぎ
  • 奴さん 獅子は さわぎ

いずれの花柳界でも頻繁に踊られるお座敷での定番の端唄をメドレーにして華やかに締めくくります。四人で合わせて舞う姿は圧巻。こちらも調子づいた軽快な踊りに合わせ、芸者衆が「ああ、こりゃこりゃ、よいとな」と節を合わせて唄います。可愛らしい踊りがお座敷の雰囲気をより引き立てました。

お座敷遊び

お座敷遊び
お座敷遊び

休憩をはさみ、最後はお座敷遊び。ジャンケンと同じ三すくみという3つの手で闘います。

四つん這いの虎
杖を突く老婆
槍を持った武士


人形浄瑠璃や歌舞伎でお馴染みの国姓爺合戦の主人公 和藤内が竹やぶで虎退治をした場面を面白おかしくお座敷遊びに取り入れたのが虎けんです。

虎は老婆に勝ち、老婆は武士に勝ち、武士は虎に勝つというルールです。
真ん中の襖を隔てて「トラ、トーラトーラトラ」の唄にあわせて踊り
最後、どのポーズをしているかで勝ち負けを決めます。
お座敷遊びの中でもポピュラーで親しまれているこの遊びを
お客様に舞台上で体験していただきました。
男性だけでなく女性のお客様も参加して
芸者の踊りを見よう見真似で上手に踊り、
会場全体で満喫していました。

  • なでしこの踊り

お座敷遊びの後は芸者衆が会場を回り交流のお時間です。思い思いにお写真を撮ったり芸者衆との交流を愉しむ時間となりました。
踊りが始まるまでは芸者衆も客席もどこか見えない敷居を跨ぐような面持ちだったこの会場の空気が、満面の笑みで溢れました。「よかったわよ。素敵だったわ!」というお客様と「本日は誠にありがとうございました」と歓喜する芸者との声が交差し最後まで写真撮影の長い列が続いてこの会の余韻までお楽しみいただきました。

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