演舞場発 東寄席 第二十一回

演舞場発 東寄席 第二十一回 2017年1月31日

2017年、今年初めの東寄席は今回で二十一回目の開催ということもあり、これまでの寄席と趣向を変え「講談と日本酒と江戸野菜を楽しむ会』をお楽しみいただきました。
『第21回 講談と日本酒と江戸野菜を楽しむ会 in 新橋演舞場』一龍齋貞水師匠 ご登壇くださりましたのは一龍齋貞水師匠。
演目は、赤穂浪義士伝・世話物・白浪物・後家騒動・侠客伝・政談・力士伝・軍談・信仰記・武芸物・民謡講談・芸道物のほか、文芸・新作物など、非常に数多く、ひとつのジャンルでも十は下りません。中でも師匠にとっての怪談物は「立体怪談」といって真打ち昇進前からの特異とされている演目でいらして、暗がりの中でぼうっと師匠の顔だけが異色の語りと浮かび上がる様は怪談好きのファンからも「不気味」で知られる評価の高い噺家で知られていました。
1996年に六代目一龍齋貞水として襲名されて後、2002年には講談協会会長に就任されるといった講談会の第一人者で、同年、重要無形文化保持者(人間国宝)に認定されています。受賞歴も多く、テレビや映画なども数多く出演され講談者としては初めての海外ヨーロッパツアーも行ったりと長きに渡り、講談を勢力的に広める活動をされていらっしゃいました。
まさに講談の名を広めた第一人者の貞水師匠の講釈を拝聴できるとあって、今宵の会場も隙間なく人、人、人で溢れた満員御礼といった状態でした。

講談を楽しむ

一龍斎貞友さんの『神田松五郎』

一龍斎貞友さん

一龍齋貞友 (いちりゅうさい ていゆう、1958年6月20日 - )大阪府出身。’92年、講談師で人間国宝の6代目一龍斎貞水に入門し’06年に真打ち昇進。女性講談師としてだけでなく声優やナレーターと様々な分野で活躍中。

明るい黄蘗色(きはだいろ)のお着物を召して登壇された貞友さんは貞水師匠のお弟子さん。女性講談師でありながら声優・ナレーターの顔もお持ちの多才ぶり。冒頭で会場の誰もが馴染みある懐かしのアニメやCMで聞いた声が飛び出せばもう、堪らず笑いと拍手がわきました。「アニメの中ではお母さん役もしていたけれど母にも嫁にもなったこと無い」というお話でしたが声優にナレーター、いずれも顔の見えぬご職業ではありながら、今宵は誰もが初めて出会ったとは思えない安心感と親近感。この声に馴染み昔から育てられてきたような感覚のお客様も多かったのではないでしょうか。自虐ネタも挟んだりでまた沸かせ、東寄席ではじめての話芸である「講談」という伝統芸能と会場の距離感を一気に縮めました。
講釈ももちろん素晴らしく、冒頭で和ませた空気を張り扇で切り替え、時代を作り「神田松五郎」を見事に講じて下さいました。火事で親を亡くした坊やと、身寄りのない坊やを引き取った夫婦。トンチンカンな笑いと、優しい人情噺がじんわり温かい涙を誘います。
 

一龍齋貞水師匠の『三村の薪割り』

一龍齋貞水師匠の『三村の薪割り』

音響と壇上のめくりが変わり『一龍齋貞水』と景色を変えると、客席は居住まいをただし、期待とどこか緊張の帯をグッと締めるかのように手にもつ酒のグラスを替え、目の前の水をぐいと飲む方も。

春を感じる若芽色のお召し物の貞水師匠は、貞友さんに手を取られゆっくり、たくさんの拍手と ともに登壇されます。講釈台の前に落ち着くとそこは師匠の聖地。たちまち溢れ出る世界観に客席が引き込まれます。

「大昔はですね、”わたしはこういう名前の芸人です”と書いた(めくりを指して)戒名みたいなもんは無くて」と、早速客席から笑いが沸き起こります。
「名前を出さなきゃわかんないような芸人じゃしょうがねえっていうんで、高座の支度をするお茶子さんが次に出る先生の張り扇を袱紗にくるんで次に出る先生の釈台の上に置いて下がってっちゃう。するってぇと、常連のお客さんがその袱紗の色を見て『おう、次はあの人が出るな』と通ぶって知ったかぶりをしたものです。」

早くも、なかなかお目にかかることのできない粋な世界観にぐっと引き込まれ、会場からは感嘆の声が上がります。

常連客のこの袱紗の色のやりとりをおぼえた講談師たちは銘々好きな色に染めていったようで、なかでも修行中の身で袱紗の色を替えてお茶子さんに頼むというのは、言語道断。お茶子さんのほうが強くて「張り扇も満足に叩けないで!」と叱られていたエピソードもあったそう。
講談は張り扇をパンッと叩いて状況経過や場所を変えることができるというのは貞友さんのお話 でしたが、張り扇も小気味よくと響くと気持ちの良いもの。うまく叩け無い講談師が、眠そうな常連客に「うるせぇ、眠れねえよ」なんて野次を飛ばされるという噺もあって、講談の会場が目に浮かぶようで珍しい話に会場中が漏らすまいと聞き入っていました。

講談は 軍記物などの一節を講釈師が語り聴かすもの。落語に比べ噺の時間も長い講釈をリズム良く仕立て聴かすのが講談師の腕と技といえます。ジャンルもいろいろとありますが「講談師、夏はお化け、冬は義士で飯を食い」と言う言葉があるほど、日本人に人気のある赤穂浪士。よく客席からも「忠臣蔵!」と叫び声があがるほど人気の講釈の一つです。

虫の声を背景に、 パンッ  と張りの良い扇の音が会場に響きます。

「三村次郎左衛門包常(かねつね)という人がおります。」

つい先ほどまでとは質感を変えた張り詰めた講釈の声。
主君の仇討ちのために薪割り屋と正体を隠し、吉良家の側で様子を伺う赤穂浪士は、三村次郎左衛門の話。近くの研ぎ師の竹屋の主人に三村の薪割りはたいそう気に入られ毎日薪割りを頼まれます。

「おめえさん、ただの薪割り屋とちょっとちがうな。素性は知らねえが、いい筋をしてやがる」
あえて素性を聞かずとも気に入ってくれた竹屋との情が深まります。

背景には虫の声、ただそれだけなのに、師匠の語りの間、抑揚、講釈が過去へ過去へと江戸まで遡り、息づかいを見せるような立体感を醸し出します。

張り扇の「タタンッ」と研ぎ澄ませた音は薪を割る音へ変わり、筋がいい三村の薪割りを目にしているような錯覚に変わり、それを竹屋の親父が気にいるのも無理は無いと瞬時に思ってしまう。師匠を通して竹屋の主人と薪割り屋をきっと誰もが目の当たりにしていたことでしょう。
会場は最後までの最後まで途切れることなく息を呑み、時に笑顔になり、時にぐっと心に何か鳴り響くような貴重な一幕を楽しみました。
 

美酒を楽しむ

東京の銘柄を楽しむ 小澤酒造

小澤酒造 取締役 小澤さん

本日のお酒は小澤酒造は『澤乃井』で知られる東京奥多摩の銘酒が振る舞われました。貞水師匠の演目で、忠臣蔵・赤穂浪士が登場しましたがその赤穂浪士が討ち入りしたのと同じ年、なんと300年以上も昔の元禄15年に創業した老舗の酒造です。23代目となった小澤酒造の取締役、小澤さんから澤乃井の酒造りに欠かせないとされる口当たりの良いやわらかな仕込み水と澤乃井特製の4種のお酒をご提供いただきました。
 


東京の銘柄を楽しむ

(写真右から)

梅酒 ぷらり

今晩は、ストレートでワイングラスに注がれて。澤乃井の日本酒を使った梅酒は甘さ控えめで口当たりもよく心地よく梅の味が香り、お食事と合わせてもよく合います。そのままのストレートはもちろん、小澤さん曰くソーダで割っても”美味しい”そう!

純米 大辛口

引き締まった辛口でありながら、純米の柔らかく奥深い甘みを感じるのが特徴です。どんな食事とも似合う澤乃井ブランドの看板商品です。

吟醸 新しぼり(にいしぼり) 吟醸 第一号

酒造りは冬が全盛期を迎えますが、こちらは2017年出来たばかりの吟醸の新種です。出来たての酒は口に含んだ瞬間フレッシュが味わえ、米の凝縮された旨味が、吟醸特有の爽やかでフルーティな味わいを醸し出します。冷やして呑むのがおすすめです。

東京蔵人(くらびと)

江戸時代に主流だった酒づくりでは最も古い”生酛造り”の味わいと澤乃井の原点のである井戸の水源を使って出来たお酒です。今や新旧一体型のお酒とも。東京の地のものと合わせていただいて楽しみました。燗で呑んでも美味しいそうで、猪口を手で包んで人肌にあたためてもコクのある優しい味わいを楽しめます。


江戸野菜を楽しむ TYファーム

TYファーム 島田さん

東寄席ではすっかりお馴染みの顔となったTYファームの島田さん。本日は「のらぼう菜の魅力」について紹介してくださいました。 小澤酒造も近くにある、空気と水のきれいな青梅で農薬も使わず、肥料もほとんど使わず野菜を栽培して東京で消費してもらおうというコンセプトで活動しているTYファームさん。中でも島田さんは江戸東京コン シェルジュという資格をもって江戸野菜を紹介する活動をされています。 今宵紹介してくださるのは”のらぼう菜”というアブラナ科のお野菜は、島田さんも「育てない年は無いほど」大好きなお野菜だそうでぜひみなさんに知ってもらいたいと嬉しそうに語ります。 のらぼう菜は9月のお彼岸のころに種を撒き、15センチほど成長させて冬を超えて春先に菜花を咲かせます。

金原亭小駒さんが開口一番

花のまだ咲かない菜葉の状態で今日はお持ちいただきました。クセが無く、栄養価が高く、なんのお料理でも使えるお野菜です。「ここで紹介しましたが、買ってくださいというわけではなく、 できれば栽培してみて欲しい」と島田さん。秋に植え3~4株ほどあれば一家族でも食べきれないほど育つそうです。食べきれない分は種をとって冷蔵庫に入れて保管もでき ます。「冬の間ビタミンが欠乏するけれど春先にこの”のらぼう菜”を食べて栄養価をもらって一気に体ごと春を感じてください。」昔は野良に咲いてたのらぼう菜を「食 えたもんじゃない」と献上品や年貢等には差し出さず、村人がこっそりと菜ばなを摘んで食べたり、種から油を搾って飢えを凌いだとか。春の美味しさと栄養価を含んだのらぼう菜を、今宵は先付けに”煮浸し”で味わいました。

季節と地産の味覚を楽しむ

色とりどりの旬の味覚

今宵も新橋演舞場が誇る色とりどりの旬の味覚をご用意しました。まだ凍えるような冬の間から小さく芽吹くような、うら若い春のこの時期は繊細で旨味を閉じ込めた食材ばかり。初春の冷たい海から水揚げされた鮟鱇は煮凝りにし、つぶ貝は黄金和えにして風味よく。菜花は白和えなど、酒に合う八寸をご用意しました。揚げ物はこちらも季節を感じる筍を海老の旨味と合わせて真丈はさみ揚げに。タラの芽や鶏の八幡巻きなどを添えました。煮物に松笠に見立てたクワイを添え、湯葉は出汁を含ませて。向付には、鰤や焼霜帆立のお刺身も。お口直しに鴨団子の汁物をご用意しました。

「あだち菜うどん学会」渡井さん

ご飯の代わりには、東京都足立区の特産、小松菜を練り込んで作った「あだち菜うどん」をお楽しみいただきました。おうどんを開発した渡井さんは、2011年3月の震災以降、復興のために「あだち菜うどん学会」をつくり足立区を元気にするために地産地消の試みで生まれた経緯を話してくださいました。
50回もの失敗を繰り返して出来たうどんは20%も足立菜を麺に練りこむことに成功し、噛めばかむほど青菜の甘みを感じられる至極の逸品です。


福を楽しむ

最後のお楽しみは抽選会。プレゼントの数も過去最大!今宵登場してくださった銘々から送られる豪華景品の品々に、観客席からも感嘆の声が鳴り止みません。景品を手にしたお客様の喜ばれるお顔が今宵のとりを飾ります。興奮覚めやらぬ会場は、お開きとなってもまだその余韻を楽しむかのようで新年初の東寄席も大いに楽しんでいただいている様子でした。

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